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院長コラム

2009-12-09

少子高齢化社会について(8) 父親のイメージとは何か。象さんか狸さんか

nathan_thumb_12007年3月、英国人の英会話教師(リンゼイさん)が殺害された事件があった。

2009年11月に、市橋容疑者が逮捕された。テレビで被害者リンゼイさんの父親は、娘の残念な思いを述べ、日本の政府、国民に対して、犯人逮捕を強く求め、逮捕された後は、被害者には罪の償いを求め、その家族にはいたわりのコメントを述べた。

一方、加害者の父親は、子どもに対して、自ら犯した罪を償うことを求め、子どもの逃避行に、一切関わっていないと述べた。

私は、事件から受ける理不尽さに戸惑いを感じるよりも、日英の父親の事件に対する毅然とした態度に不思議な感動を覚えた。

ヨセフの真髄(しんずい)(講談社選書メチエ)竹下節子著によれば、

父とは母の呼びかけによって成り立つ。父子関係とは、因果的(いんがてき)(生殖(せいしょく)関係(かんけい))順列的(じゅんれつてき)関係(かんけい)ではなく母の呼びかけによって喚起される関係性なのだ。・・・・・・ヨセフのした最大のことは、イエスを受け入れ、イエスの子ども時代にそばに居てやったことだ。人が母に愛され母親を愛することは、母親にもらった命を人質にとられることでもある。だから共依存の関係に陥りやすい。互いの重さがどこまでも増していくかも知れない。人が、本当に自立するには「母親以外の人間」に肯定されることが必要だとしたら、父とは子どもを絶対肯定する、母親以外の別名なのだろう。

無常という名の病(サンガ新書)山折哲雄著によれば

【釈迦(しゃか)は、人の生病(せいびょう)老死(ろうし)の生活に触れて、人の宿命的(しゅくめいてき)課題(かだい)を解決するために、出家(しゅっけ)したといわれているが、そのときに妻と息子との家族を持っていた。釈迦は家族を捨てて「蒸発した」といえる。・・・・・・6年後に悟りを開いた釈迦には、十大弟子がいた。その九番目の弟子は、捨てられた息子である。その子が、どういう過程を経て弟子になったかという記録(経典)は一切残っていない。・・・・・・釈迦が死ぬとき(釈迦(しゃか)涅槃図(ねはんず))傍にいたのが従兄であり、十番目の多聞(たもん)第一の弟子(阿難(アーナン))である。(4歳で父に捨てられた)息子の父に対する愚痴や恨みや葛藤をいつも聞き役になっていたのが、知恵(ちえ)第一の弟子でもなく、説法(せっぽう)第一の弟子でもなく、神通力(じんつうりき)第一の弟子でもなく、多聞(たもん)第一の弟子であったに違いない。傾聴(けいちょう)(聞き上手)できる人に出会わないで、子どもの自立は考えられない。

これらの著書は、父のイメージは、釈迦のように子どもを絶対否定する存在であり、ヨセフのように絶対肯定する存在でもあると教えている。

英国では、親は、ヨセフがキリストの子ども時代に傍にいたように、子どもが11歳になるまで一人にしないで見守る。18歳(成人)頃からは、イギリス連邦のカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシアなどへ一人旅をさせて、自立させる習慣が今でも残っているようだ。リンゼイさんは、たまたま治安のいい日本に旅立った。父親の姿に子どもの自立とそれに伴うリスクに対する複雑な心情とその無念さがにじみ出ている。

一方日本では、釈迦のように子どもに背を向け、拒み「子どもは親の背中を見て育つ」式の家父長的関係が薄れたとはいえ残っている。父親の多くは、家族のために、苦労をして、辛抱していると思い・・・・・せめて子供も少し辛抱をして、苦労して何とか自立してほしいと思っている。市橋容疑者の父の姿に、そんな思いと我が子が最悪の結果を起こしたことへの残念な思いを見る。

このような日英の父親のイメージが重なり、不思議な印象を与えたと思う。

現在の高度な情報化社会、少子高齢化社会では、多くの父親は、一人孤高(ここう)の姿勢を持つ釈迦型も、静かに見守り続けるヨセフ型にもなれない。地球に北極・南極があるように父親像にも対立する両極性があってもいい。けれども現代の父は、釈迦型とヨセフ型を足して2で割るような両極の中間にいるかではなく、ヤジロベーのように常にふらつきながらもバランスを取り、両極の間を行ったり来たりを繰り返しながら、子どもとコミュニケーションを作るしかないのではなかろうか?

更に臨床精神医学の立場から見ると、子どもが自立するためには、血縁や父性か母性かという性を超えて、父親が母親役を分担し、母親が父親役を分担する【一組の両親】が必要である。例えてみると、子どもの話をよく聞き小言を言わないで、生きる象さんのような「大きな耳と小さな口を持つ母(父)」と子どもの話にうてば響くように答える狸さんのような「太鼓腹(たいこばら)を持つ父(母)」との中でヤジロベーのように、子どももまた右往左往しながら社会性を獲得していくのではなかろうか。

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