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院長コラム

2023-02-22

理事長メッセージ(54)夢見る・眠る・目覚める(3)自我(エゴego )と自己(セルフself)の関について

フロイトは、精神分析入門で次のように宣言した。「自我は自分自身の家の主人公などでは決してありえないし、自分の心情生活の中で無意識に起っていることについても、依然としてごく乏しい情報しかあたえられていないということを、この心理学的研究は証明してみせよう。・・・・・・・・・・」

フロイトは,その後1921年「集団心理学と自我の分析」、1940年「精神分析学概論」によって、新たな精神分析の方向性を示した。自我(エゴ)を中心に据えた臨床的な治療経験から

①精神療法における治療者(フロイト)と治療契約を結ぶ人々(クライアント)の自我(エゴ)には、エスや超自我あるいは現実の 要求に受動的に対応するだけでなく自律的に機能する自我を発見した。

②不快な感情体験が生まれると無意識的に、心理的に、安定を保つ機制が働くと見た。  例えばトラウマを受けた場合「こころの奥に封印して、考えることを避けるとき、時に忘れたい、忘れよう、忘れている『抑圧という防衛機制』が働くと考えた。」

不快な感情体験が解決されないと、不安が生じて、葛藤とフラストレーションに陥る。

ここからフロイトの娘であるアンナは、自律的に機能する自我に対して葛藤する自我(エゴ)には、防衛機制が働くことを研究し、フロイトの防衛機制を発展させて確立した。またハルトマンは、(知覚や思考などエスや超自我あるいは)外界との葛藤に巻き込まれない自律的に機能する自我の働きに着目し,それを発展させて、フロイトも承認した葛藤外の自我領域(conflict-free ego sphere)を確立した。
ここに至って自我(エゴ)は、自我を防衛する機制と葛藤からの自由な自我の発見は、外界に対して主体性を持てるという意味で、精神分析的自我心理学を確立されたと言われる。

しかし、このアンナ•フロントとハルトマンによって確立された精神分析的自我心理学は、心理社会的発達の観点から、さまざまの理論が生まれた。
そんな中で、D・H・エリクソン(1902-1994)は,フロイトーアンナ・フロイトーハルトマンの精神分析的自我心理学の流れを正当に受け継いだと言える。自我(エゴ)の社会・文化的な面と心理学的な面との相互作用において自我あるいは自己の発達をとらえる心理社会的発達理論を展開した。

各発達段階における心理社会的危機に対して効果的に作用し,生涯を通じての自覚的存在になっていくことである。

D・H・エリクソンは、人の生涯にわたる心理社会的発達を8段階でとらえる漸成図式を提唱した。乳児期から老年期に至る個人の生涯を八つの発達段階に分けているが、個人はそれぞれの発達段階において新たな心理社会的危機(Pycosocial crisis)に直面する。それを乗り越えて成長していくと考えた。青年期の発達として自己同一性の感覚(Sense of identify)、老人期のそれとして自己完全感(Sense of integrity)の獲得をあげている。

この主張は,人間の発達がほんとうに自分らしい自分を感得し、 自分らしい世界を築きあげていくことを示している

 

 

 

第一期:乳児期
母親ないし母的養育者との関係の変化の中で、基本的信頼対不信の危機を超えて、親や養育者との間にヒトとしての基本的信頼を獲得する。

第ニ期:幼児期
排泄、歩行、挑戦する時期でもあり、日常生活の自律対恥・疑惑の危機を超えて自律心を獲得する。

第三期:遊戯期
子供同士の交流・自己主張をする時期でもある。子どもの遊びの中で、自主性対罪悪感の危機を超えて、自発性を獲得する。

第四期:学童期
小学校生活の時期である。勉強や遊びの中で、勤勉性対劣等感の課題の危機を超えていく。

第五期:青年期
就職、進学…人生の選択肢に向き合うの時期である。
アイデンティティ(同一性)対アイデンティティ混乱(モラトリアム)の課題の危機を超えて、社会人としての基礎が完成する。

第六期:成人初期
親密な人間関係に向き合う時期である。
会社、学校、家族などの共同社会の中で、親密性対孤立・孤独の課題の危機を超えていく。

第七期:成人期
次世代への貢献
生産性対停滞の課題の危機をこえる。

第八期:円熟期
自己完成対絶望や嫌悪、統合対絶望の獲得もしくは確立に向き合う。

時代の変化と共にある臨床精神医学の視点から見て行くと「立ち止まって、考えてみてもいいのでは?」思うことがある。
例えば、このD・H・エリクソンの理論が成立した、1950年代は、第二次世界大戦の混乱と第二次世界大戦後のアメリカ合衆国に、世界の富が集中し、繁栄を極めていた時代背景にした価値観の混乱が世代間に生まれた時期であったと考えなければならないと思う。アメリカの多く青年たちは、近代工業化の時代に高度な技術を身につけて、自己同一性『セルフ・アイデンティティーの確立』就労自立をしていけたと言える。
今やアメリカの価値観の多様化と格差社会という時代の変化が起きており、自己同一性『セルフ・アイデンティティーの確立』の評価も見直されてもいいと思う。

 日本においてはどうか?内閣府男女共同参加局の令和4年版を見てみよう。

本編 > 1 > 特集 > 第5図 家族の姿の変化

1980年、夫婦3世代家族が全家族数の62%であった。2020年には32.7%に減少しており単独家族は、12.5%から38%と3倍になっている。夫婦のみの家族は12.5%から20%に増えている。ひとり親と子どもの家族は、5.7%から9%へと増加している。この家族単位の変化は、日本の少子化の現状をも表していると思う。エリクソンの言う『人間の発達がほんとうに自分らしい自分を感得し、自分らしい世界を築きあげていく』ことが難しい時代になっていると思う。

フロイト著作集第一巻∼第六巻:人文書院 1971年9月20日初版発行
自我と防衛:A.フロイト(著者),外林大作(訳者)誠信書房:1958/06/20刊

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