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院長コラム

2009-09-14

村上春樹について(1)

21JXNBHKBAL__SL500_AA140_村上春樹の処女作「風の歌を聴け」(1979年刊)の冒頭は次のように始まる。

【完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね】

私は、小説とは完璧な文章を目指すものではないのか?絶望が完璧になったときに、人は死を選ぶのではないか?と一瞬戸惑ったが、次のような文がテンポよく続き一気に読み終えた。

「この話は1970年の8月8日に始まり、18日後、つまり同じ年の8月26日に終わる。」

「金持ちなんて・みんな・糞くらえさ」鼠は(僕の小説を書かない小説家の友人)カウンターに両手をついたまま僕にむかって憂鬱(ゆううつ)そうにそうどなった。」

「彼女は主に僕の大学と東京での生活について質問をした。たいした面白い話ではない。・・・・猫の実験の話やデモやストライキの話だ。そして僕は機動隊員に叩き折られた前歯の跡を見せた。「復讐(ふくしゅう)したい?」「まさか」と僕はいった。・・・・・僕たちは食後のコーヒーを飲み、狭い台所に並んで食器を洗ってからテーブルに戻ると、煙草に火を点けてM・J・Qのレコードを聴いた。」

「全ての物事を数値に置き換えずにはいられない癖である。約8ヶ月間、僕はその衝動に追いまわされた。僕は電車に乗るとまず乗客の数をかぞえ、階段の数を全てかぞえ、暇さえあれば脈を測った。」

「1973年のピンボール」(1980年刊)

70年代の若者が、アパシー(無感動)になる中で、僕(作者)は、熱中する対象としてピンボールに出会う。ピンボール機「フレンドシップ・7」のボードに描かれた宇宙飛行士(グレン飛行士)の絵を見て、60年代の宇宙時代への熱狂を思い出す。

私は、ピンボールや宇宙へこだわることが、生きる意味と同じ人もいるのだと思った。

「羊をめぐる冒険」(1982年刊)

札幌にあるいるかホテルを舞台にしている。自然の豊かさを持つ北海道、その象徴である羊の中には、背中に星形の斑紋(はんもん)を持つ羊がおり、その羊が人に入り込むと社会的強者になれる。金持ちや権力者のモラルや品性を嫌う鼠に入り込む。鼠は、自己嫌悪に陥り入り、羊から逃れるには、共に死ぬしかないと悟り、自殺する。僕(作者)は友を失い、再び日常に戻る。さりげなく時は、1970年であることを示す文もある。「午後のラウンジで女の子とホットドッグをかじっていたとき、ボリュームの故障したテレビには三島由紀夫の姿が繰り返されていた。それは自衛隊への乱入事件の映像だった。」

私は、この頃から、自然が破壊され、人の心は孤独になり出したのだと思った。

「ダンス・ダンス・ダンス」(1988年刊)

1983年に僕(作者)が札幌を再訪することから始まる。いるかホテルが26階のドルフィンホテルに建て替えられているように、「羊をめぐる冒険」の続編とも取れる。時はバブリー経済で、高層ホテルや超高層ビルが建ち始めた頃である。その繁栄の象徴であるタワーには、秘密のドアがあり、闇の部屋があり、そこに羊男が隠れている。

私は、競争社会で生き残るためには、人は誰でも、闇の部屋に出入りしながら、お金や権力のリズムに合わせて踊り続けなければならないのだと思った。

私は、軽やかに展開する初期の4作品を「こんな青春もありか」と感動した。

一方、村上春樹の小説論は、饒舌(じょうぜつ)である。熱心な読者には、いいかもしれない。私には、読み方を強いられそうで気になるが、その語り口は次のように的確だ。

「【風の歌を聴け】の題名は、トルーマン・カポーティの短編【最後の扉を閉めよ】の結語になる、何も思うまい。ただ風にだけこころを向けようから採ったという」

「スコット・フイッツジェラルドを評価しながら、一流作家の条件であるとすれば、家庭の悲劇、報われぬ愛、裏切られた夢、個人的な世界をより広大な世界に、そして宇宙へと敷衍(ふえん)して行くことである。その意味ではスコットは一流作家ではなかったという」

「チャンドラーの都市小説を語り、作者に生きることに対する確固とした姿勢があって、物事を切り取る確かな視点があれば、その人がどのような種類の虚構(きょこう)を描いてもリアリティと言うものは必ず染み出てくるという」

「都市小説のリアリティは、人は人であり、場所が場所であらねばならぬという憧憬である。この感覚は初期のマルクスのいう『自然さ』に一脈通じているのではないかという」(村上春樹ブック文学界4月臨時増刊1991年)

作者が早稲田に入学した翌年の‘69学生誌「ワセダ」に、’68の映画群から、『問題はひとつ。コミュニケーションがないんだ』を書いた。(村上春樹の世界98年ゼスト社刊)。

作者は全共闘運動に一学生として参加し、その敗北の過程で人と人とのディスコミュニケーション状況に絶望した。しかし完璧な絶望が存在しないように!そこから蚕(かいこ)が繭(まゆ)を紡ぐようにアメリカ小説に影響を受けながら、独自の小説を発表するまでに約10年の月日を要したと推測される。

今年2009年「1Q84」が話題になっているが、私は「スプートニクの恋人」(1999年刊)が代表作だと思っている。(この項続く)

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