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理事長メッセージ

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理事長メッセージ(57)呼吸について考える
2023-12-26
2023・12・26 宗 代次

 中学校の記録会で、8名の参加者に達しないと聞いて、400メートル競走に出た。ピストル音で、スタート・ダッシュした。200メートル頃から失速し、350メートル頃から、走ろうとしても走れず、歩きなから、ビリでゴールした。その場に崩れ、青い空を見上げた。呼吸も苦しく、身の置きどころもないほど切なく、「死ぬのではないかと思った。」

 また20歳頃に、札幌から支笏湖までサイクリングをした。当然、完走する気で、ペダルを踏んだ。アップダウンの多い道が、延々と続いた。支笏湖への道半ばで、ダウンした。道端の土手に倒れて、青い空を見上げた。体は動かなかった。その後、上り坂は、ゆっくり歩き、下り坂のみ自転車に乗って、サイクリングを続けた。支笏湖から、家に着いた時は、周囲は、真っ暗になっており、惨めな思いをした。

以来、過換気症候群の人を診るたびに、自分の体験を思い出し、呼吸の不思議さに向き合い続けている。

 動物は「体重」と「寿命」が比例し、一生の心拍数はほぼ同じであるため、呼吸数も約五億回と同じようで、象もネズミも彼ら自身、主観的に感じている時間は同じ長さである。という不思議な原理がある。

 「ゾウの時間、ネズミの時間・本川達雄・中公新書、1992年8月2日刊」

 しかし、近年の呼吸の研究は、より科学的に解明されつつある。

人の肺呼吸は、生まれた赤ちゃんが泣いて(呼いて)吸うという産声から始まる。そして、一生に6億回するという。皮膚呼吸はできないが、呼吸の大事な働きは、次の三点といえる。

 ①肺にある3億個の肺胞内の中で、ミトコンドリアは、栄養と酸素を使い、エネルギーを作る。つまり、酸素・炭酸ガス交換をする。それで生じる炭酸ガスによって、血液は、PHを7.34 ~7.45をキープしている。

 血液は、炭酸ガスが増えるにつれて、アルカリ性になっていき、意識障害を起こしていく。この調整は、頭の脳幹で、行われるので、脳による代謝性呼吸という。この代謝性呼吸だけでは、呼吸をコントロールできない。

 ②前頭葉(判断をする脳)で、呼吸のリズムを感知し判断をして、深呼吸や腹式呼吸をして、炭酸ガスを調節する。この前頭葉での作用を大脳呼吸という。

 ③更に、血液がアルカリ性になる程度によって感情中枢(大脳辺縁系・扁桃体)に作用して、炭酸ガスを調整する。これを情動呼吸というが、ネガティブな感情により反応しやすい。

 また呼吸について特異なポイントを、北岡裕子(東京農工大学工学部生体医用システム工学科客員教授)は、次のように述べている。

哺乳類が、進化の過程で、胸部と腹部を分ける横隔膜が形成された。ヒトは、横隔膜が上下運動するように進化していった。このために、ヒトは、呼吸を静止している時も、移動しながらも、できるようになった。二足歩行と横隔膜による腹式呼吸を獲得することによって、ヒトのみが、呼いて、吸う量を調整できるようになり、アコーデオンのように、言葉(声)を巧みに使いわけれるようになった。

 移動しながら呼吸できるようになり、言葉を巧みに操つり、集団で狩りもできるようになった。

 動物の分類を魚類ー両生類ー爬虫類ー鳥類ー横隔膜類(哺乳類)としてもいいほど横隔膜の形成を大事なことと強調している。

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 呼吸のセルフケア(呼吸の働き)を最適化するには、大気と気道・肺の関係を知る必要がある。まず口や鼻から空気を吸い込んでも、肺に達するまで、気管支を通過する。その気道に約150mlの空気が残る。肺の容量は、500mlなので、気道に残る量を引いた350mlが肺内に入る。口や鼻から肺までの容積

150mlを特に、死腔と呼ぶようだ。従って、一度の呼吸で、500ml のうち350ml ずつ交換される。

 浅く早い呼吸の場合は、一回の呼吸量は、250mlで、死腔と呼ぶ、気道に150ml残るので、肺に入る量は、100mlになることになる。これは明らかに酸素不足で、苦しくなる。

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 代謝性呼吸、大脳呼吸、情動呼吸がバランスよく機能をしていると考えられている。従って、呼吸中枢の制御のもとに、意識しなくとも、眠っている時も呼吸は止まらない。筋肉と神経の関係を見て見る。

 吸気(きゅうき)は、横隔膜や外肋間筋をはじめとする吸気筋収縮して、胸郭内の肺容積を拡大する。その結果、胸郭内の圧は陰圧になって、外の空気が肺に吸い込まれていく。
空気が肺に入ると肺は風船に空気を入れたようになり、吸気筋の活動が止まる。

 その後、風船がしぼむように空気が逆に外に出て行く、すなわち自然と呼気(こき)が始まる。更にそこか呼気に際して横隔膜は弛み、腹筋の活動で腹圧が高まることによって押し上げられて肺内の空気を押し出すのです。

 呼吸は、横隔膜を主とした腹式呼吸と胸郭そのものの拡大・縮小を主とした胸式呼吸とに分かれる。




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 腹式呼吸を行うと、副交感神経優位の状態となり、内臓運動が高まって血中酸素濃度が上がり、心身の緊張がとれていくといわれている。

 例えば、コンサートなどで緊張して、咳こみそうな時に、腹式呼吸によって、咳こみを抑えられる。

 呼吸を浅く早く、つまり換気を余り頻繁に行うと、血中の炭酸ガスの排出が過剰となり血液がアルカリ性に傾いて、いわゆる代謝性アルカローシスの状態となる。この程度によって、血中のカルシュウムの減少、細胞内カリウムの減少などが起こり、感情中枢に、影響を与えて、目がまわる、手足がしびれる、動悸がするなどの症状が起こる。これを過呼吸(過呼吸症候群)という。

 その対策は、呼吸の速さと深さを自分で調整出来るように、腹式呼吸と深呼吸を訓練しておきたい。
 腹式呼吸のみが、自律神経の中で、骨筋肉系に働いて、活動型の交感神経系の緊張を緩ませ、心肺機能や消化器系に働く休息型の副交感神経系との調整できる唯一と言ってもいい機能である。

 現在のストレスの多い社会では、このような肺と大気の関係を知ることは大切である。

 ①腹式呼吸をする習慣を身につけよう!

 ②静かに背伸びをして、深呼吸を数回してみよう!普段の気分転換の一つに、是非この二つの呼吸法を加えてもいいのではなかろうか。
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