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理事長メッセージ

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理事長メッセージ(58)愛は胃を通って行く
2024-03-01
2024・2・26 宗 代次

「愛は胃を通って行く。」は、ドイツ語の
Liebe geht durch den Magenの訳である。

 もし愛が胃を通して行くとしたなら、会食は、幸せをもたらし、コミュニケーションを良くする。
(Wenn Liebe durch den Magen geht, versteht man darunter, dass gemeinsames Essen Glücksgefühle auslösen und Beziehungen stärken kann.)

 今のドイツ語辞典であるDuden(ドゥーデン)には、美味しい料理は、人に、好意を抱かせる、フレンドリーにさせる。
(Oder wie es im Duden-Lexikon steht, dass eine Person, die gut kochenkann, sympathischer wirkt.)

 現在は、日頃使っている、愛を成功させるためには、手料理で胃をつかめという意味に受け取っている人が多いのではなかろうか。

 さて、現代の医学では、胃についてどう考えられているか見てみたい。

 兵庫医科大学総長である三輪洋人先生は、胃について、胃の内壁は、自律神経で支配されている。胃は、喜びを与えるだけでなく、ヒトの生存を心身共に、守る臓器のひとつでもあると、強調している。

 また、宮崎大学の中里雅光先生は、
 1998年に発見されていたグレリンと言うホルモンの90%が胃で作られることを発見した。グレリンの作用をまとめると
 ①朝6時、昼12時、夕6時に胃の中で、グレニンの分泌が増えて、空腹感を脳内の摂食中枢に伝える。
 ②食事に伴う幸福感のシグナルを脳の報酬系(辺縁系)に伝える働きがある。
 胃から分泌されるグレニンというホルモンは、食欲を起こさせるだけでなく、朝、昼、夜の時間をいわゆる「腹時間」を体感させて、一日の時間リズムを守っている働きの一つである。
 食べる時間を朝の6時、昼の12時、夕方の6時にキチンと食べる必要はないが、少量でもいいから一日3食を食べることが大切なことと言える。

 遠藤秀紀東大総合研究博物館教室は、
 1.胃酸が高い消化管(胃)の発生は古い。
 2.胃の膨らみは進化的には比較的浅い歴史のものという。
 例えば鶏は、腺胃、筋胃(砂嚢)(噛み砕ける)と機能別にふたつの胃を持つ。牛にいたっては、草食で生命を繋ぐために、四つもある。合わせて200Lの内容量を持っている。食道から
1️⃣ミノ(餌を分解する)、
2️⃣ハチノス(更に細かく分解する)
3️⃣センマイ(草の水分を搾り取る)
4️⃣ギアラ(胃酸で溶かし吸収しやすくする)
草を主食とするので、進化している。

ヒトは雑食なので、病原菌や毒物に近いものを口に入れてしまうことが多い。消毒、殺菌をする必要があって、胃液の酸性度(胃酸)は高くなった。
 酸性度(pH)でいうと、胃酸は、ヒトのpHが1.5,ねこのpHが3.6,イヌのpHが4.5となり、人の胃酸の酸性度は高い。ねこ、イヌの方が食事に対して、慎重で、食わず嫌いが多い。

 ヒトは、ガリバー旅行記を書いたイギリスのジョナサン・スィフトが「初めて牡蠣を食った人間は大胆な人間であった」という言葉を残しているようにむしろゲテモノ食いも多いし、珍味をよしとするグルメも多いのも胃酸のおかげと考えられる。

 しかしヒトの血液のpHは7.35〜7.45の範囲で、中性がpH7であるので、ややアルカリ性である。胃では酸性であるが12指腸、小腸、大腸と酸性からは、アルカリ性に変わっていき、消毒、殺菌より栄養を適切に、摂取できるように進化している。食べ物を血肉化して、エネルギーに効率よく転化していくようになっている。

 もうひとつのヒトの進化の特徴である『胃の膨らみ』を獲得することによって、野生動物に見られる「食物を取るか寝て休むか」という1日から解放された。何日分も食い溜めは、できないが、一日に、朝・昼・夕と食べる時間と敵から逃げる、戦う、考える時間を分けることができるようになった。

 この脳と胃との関係が、三輪洋人先生は、「胃は、喜びを与えるだけでなく、ヒトの生存を心身共に、守る臓器のひとつでもある」の根拠になると考えられる。

 しかし進化してきたヒトも動物である痕跡とも言える「排泄の時間はヒトもイヌも同じ時間である。」という共通点は残っている。

 臨床精神医学の観点から見ると

 1、便秘を訴える人がしばしば見受けられる。食べすぎることで悩んでいる人もいる、食べれないで悩んでいる人もいる。どのような食事が、適切かは、多様で、難しい。

 2、日本人で世界に認められている森田療法を確立した森田正馬は、自らの強迫性神経質を治したことから理論を発展させた。倉田百三の強迫神経質を、また第一次、第二次世界大戦後の価値観の転換に苦しんだ若者たちの思想転換や「日本の封建的女性からの自立」に苦しんだ人達……を救った。

 例えば、尖ったものが気になる先端恐怖や同じ行動を繰り返す強迫行為などの神経質を見て、

 ①気になることが少しあるだけでもこだわりが生まれる。神経質になる人は、苦痛や気になることがない森田のいう「完全欲」とも言える完全に症状をなくそうとするあまり、その努力がさらに気にするようになる。

 ②一度生じたこだわりを解消する努力が更にこだわりを生む作用を精神交互作用といい、悪循環になり、神経質を形成していくとした。

 森田は、この悪循環を断つには、特に、睡眠、作業(活動)、食事のリズムを大切にした正規生活を大切にすることを提唱した。
 3、医療の専門領域でも、Liebe geht durch den Magen という言葉は、ニュアンスの違いを残しながら使われていると思う。例えば、生理学を勉強した人は「適材適所」と理解していると聞いたことがある。また、栄養学を学んだ人は、「医食同源」と理解していると言った。

 私は、子供の頃の食習慣の大切さから「学校給食」とか、偏食の場合には「B級グルメ」とか、あたりまえなのに、あたりまえでなくなりつつある「家族団らんとかおふくろの味・・・・・・」いろいろ浮かんでくるので、その都度、考えてコミュニケーションをとる一つのツールとして考えている。
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