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理事長メッセージ

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理事長メッセージ(52)夢見る・眠る・目覚める(1)フロイトの夢を考える
2022-09-05
1916年に発表された「悲哀とメランコリー」において、フロイトは、悲哀に対する仕事(愛する人を失ったり、愛する対象を、愛する国を、失ったりしたことに対する喪の仕事)は、悲哀におちいる心情的理由もメランコリーになる心情的過程は同じである。ただし、メランコリーには「自我感情の著しい低下」をもたらすとフロイトは洞察した。
夢についてフロイトは精神分析療法の中で、次のように述べている。
「健康といいうる範囲内での神経質と神経症との区別、実用的な点だけに限られます。すなわち、その人に未だ充分に楽しんだり仕事をしたりする能力が残っているかどうかにしたがって健康か神経症かが決められるのです。・・・・・・・・・・・・・
健康人の夢と神経症の夢との同一性という事実から、健康ということの特性について、以上のようなことを推論をしても差し支えないでしょうが、夢そのものに対してはさらに広く次のように結論できます。
すなわち神経症の者のばあい、夢をその神経症の症状への関係から切り離してはならないこと、思想を太古的な表現形式に翻訳することで夢の本質のすべてがつくされると信じてはならないこと、夢はわれわれにリビドーのありのままの処理の仕方と対象充当の有様を表していると仮定せざるをえないということがそれです。・・・・・・」精神分析療法P378

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夢を太古的な表現形式に翻訳することは、どういう意味か?
三木成夫によれば、恐ろしい夢、悪夢、のどかな夢・・・・は、進化の過程で、魚類ー両生類ー鳥類ー爬虫類ー哺乳類と系統発生をくりかえし、人類に進化に二十数億年かけて現在があるように、個体どうしとの戦いや自然の変化への適応がさけられなかった。系統発生を繰り返す進化の過程を人は、誕生するまでを記憶している。その後成長していく過程で、さまざまの困難が「今ここにいる」時々に、夢の中に出てくるということである。
例えば、2000年、アメリカ大統領ビル・クリントンがヒトゲノムを解読したと発表以来、今年、小林武彦東教授(大創生生命探求センター)によるとわずか22年間で、人間の全てのゲノムが分かったという。どの位の数か?ヒトの細胞は、200分の1ミリで、37兆個ある。ゲノムとは、遺伝子(gene)と染色体(chromosome)から合成された言葉で、37兆個の細胞のひとつひとつにDNAがあり、その全ての遺伝情報が解明された。人は、進化の全ての遺伝情報を記憶していると言ってもいいのかも知れない。

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フロイトが夢はわれわれにリピドーのありのままの処理の仕方と対象充当の有様を表していると仮定せざるをえないということを控えめに言わざるを得なかった理由は次の点にあった。
夢の操縦法の著者エルヴェ•ド•サン・ドニ侯爵は、
『夢の操縦法で私が明らかにしようとしたことをまとめて言えば、一般に夢の心理学といわれるものであり、睡眠時に思考=夢を喚起し、精神を自然発生的に、あるいは意図的な運動の中で誘導し、意のままに操作する方法である。
私が言っていることは、思考が眠るとは思えないし、どんな努力も眠りによって、中断されることはないということ。そして、もし眠りの中で配慮することが難しく、意志が強く働かず、正しい判断ができないなら、代わりに、想像力や記憶力や感性が巨大な力を持つようになるであろうこと。
したがって、もし夢見の状態で、良識にかなった精神活動を実現するのに不可欠なこの知的バランスが保たれないとしても、それでも、想像の世界において、現実世界の未知の扉を開くことはできるということである。』と述べている。

翻訳した立木氏の解説に次のように書いてある。
フロイトはエルヴェ・ド・サン・ドニが、『人間は睡眠中でも活発な思考活動を行うと主張し、白日夢、夢占いもふくめて分析し、夢とは記憶の断片を結び合わせストーリー化する「正調な知的作用」と考えた。』本を出版したことを知っていた。しかしフロイトは、夢の分析を発表する時に、本書を必死に探し回ったが、どうしても入手できなかった。

医師であったフロイトにとって、この本は自我の心理学的研究によって、夢の心理学、エゴ=自我を確立する壮大な試みを実現するために、必要不可欠な本であったに違いない。

フロイトが精神分析療法を発表してから、ほぼ1世紀が過ぎた。
革新的テクノロジーの発展によって、夢と脳科学や五感と脳科学などの医科学の分野に於いての進歩は著しい。
しかし、急いで、先に進まずに
フロイトに敬意を払わせたエルヴィ•ド•サン•ドニの夢の操縦法に、触れてみたい。

フロイト著作集第一巻人文書院1971年9月20日初版発行
胎児の世界 人類の生命記憶 三木成夫著 中央新書1983年刊
夢の操縦法 エルヴェ•ド•サン・ドニ侯爵著 立木鷹志訳 図書刊行会2012年3月22日刊
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