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理事長メッセージ

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理事長メッセージ(53)夢見る・眠る・目覚める(2)夢の操縦法を考える
2022-12-08
夢の操縦法の著者エルヴェ・ド・サン・ドニ侯爵は、19世紀末のフランス貴族であった。侯爵は19世紀の研究者が夢を「心的能力の低下や混乱が生み出す変調」と捉え、夢遊病や幻覚と区別しなかった時代に、意識で夢をコントロールしてみせようと、数々の実験を試みた。そして、侯爵は、人間は睡眠中でも活発な思考活動を行っていると主張した。その根拠は、自分で夢日記をつけることで、夢に意思を働かせることによって、記憶の断片を結び合わせストーリー化させることを発見したことによる。
 例えば、睡眠中に鈴の音を聞かせるなど外部刺激を使って、夢に意思を働かせ介入する方法、また特定の匂いや香りを嗅がせ、その条件反射を利用して「埋もれていた記憶」から夢に誘導していく方法である。これらの外部刺激法でだめなら、睡眠中に自分の意志を働かせて内部から夢に介入する方法もある。乗馬する夢を見たら、覚醒時と同じように馬を自在に操ってみること・・・・・・その分析は、次の三点にまとめている。
 侯爵は、明らかにしようとしたことをまとめて言えば、一般に夢の心理学と言われるものであり、
1、夢日記をつけること。
2、夢に意思を働かせるために、外部刺激を使って、感覚を利用する。
3、精神を自然発生的、あるいは意図的な運動の中で誘導し、夢を意のままに操作する方法である。
 匂い、味、肌合い、音楽的主題は、ある人物や場所にまつわる記憶を夢に結実させる。侯爵は夢を見ていることを意識し、自分自身の思った方向に思考の流れを操作する。したがって、侯爵は思ったように自在に夢を見られるというのである。

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このようなことが本当に出来るのであろうか?
エルヴェ・ド・サン・ドニ侯爵(幼少名レオン)の生い立ちについて、翻訳者の立木は次のようにのべている。
【1822年5月6日パリのシェーズ街5番地に生まれた。 フランスの男爵を父として、母が相続したブレオ城で、幼年時代のほとんどを過ごした。 何不自由なく育てられたレオンは、子供の頃から友人と遊ぶこともなく、パリの邸宅や、ブレオ城での孤独を糧として成長をしたのである。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 侯爵は後年、支那学者として唐代の詩を仏訳し、1885年パリ万博の中国パビリオンを立ち上げた記録を残している。】
夢に惹かれる傾向が、子どもの頃からすでに芽生えていたのである。
「ある日、生き生きとした印象の特別な夢を素早く記録したらどうかという考えが浮かんだ。面白そうだったので、すぐに専用のノートをつくり、そこに夢の光景や形象を、それがどんな状況でもたらされたのかという説明と一緒に描いた。」
「第二章 夢日記と最初の結論ー夢にみたものがだんだん思い出せるようになり、夢のない眠りはないという確信に至るー夢の中で、夢を見ていることを自覚できるようになり、この状態で、精神の働きを観察する。」
「夜毎の夢を記録し始めたとき、私は13歳であった。その記録は、彩色された絵入りのノート二十二冊に及び、千九百四十六夜、つまり五年以上の記録となっている。そこに秘められた観念連合やそこから導き出せる解釈といった細部に入る前に、この記録を外観してみることにしたい。(夢の操縦法17頁)」
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現在の脳科学を少し見てみよう。
18世紀にエビングハウスという心理学者は、アルファベットの3文字の羅列を20個暗記させて、翌日までに覚えているのは8個:40%になる。ほとんど48時間で忘れることを確かめました。日頃経験している「三日坊主」はああそうなのかと思い当たるのではなかろうか?
東京女子医大の宮田麻里子教授は、脳の発達は、脳の重量と脳波の関係から、12歳で完成するといえる。脳神経細胞は17歳ころにピークアウトするから、この頃が記憶力もピークに達すると言われている。
思春期に入るといろいろなホルモンが分泌され始めて、身体の成長が急速に始まるので、エネルギーは脳の発達だけに使いきれなくなり、身体と脳のバランスを如何にするかという問題が生じる。
脳の能力の何をとるか?何を捨てるか?という問題に向き合うようになる。
現在その脳の発達には、臨界期というか感受性期というものが想定されている。
新生児から3歳までは、感覚神経回路の臨界期が想定される。例えば絶対音感は、3歳までに、教育されないと身につかない。
3、4歳から7歳までは言語機能の臨界期、例えば、英語のRとLの発音は、3歳頃に自然に身につく、言葉を覚えて使うようになる。その後は高次認知機能の発達が25歳まで続くという。特に6、7歳からは「うさぎおいしかの山」のふるさとの自然の中で、友達と遊ぶことが望ましい。
思春期は、リスクテイクの時期である。思考ー行動は、生活の安定より、新しいことに挑戦していく意思が優位な時期である一方、大人に守られる子どもであると言われる。
脳科学の視点から考えるとエルヴェ・ド・サン・ドニ侯爵は、幼少時期に、何不自由なくヨーロッパ文化の高度な音楽、建築、絵画などの芸術に親しみ、食事、服装など視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の感覚神経回路の発達する環境にいた、3、4歳ころには、気の向くまま童話を聞き、いろいろな言語を使う人に囲まれて、言語機能の臨界期を経たと推測される。当然、ヨーロッパの都市や名勝にも旅行をしているに違いない。そして思春期に入るころに、夢にテーマを絞って「夢日記」を書いたことは、記憶力がピーク迎える時期に、映写機のごとくに、フロイドによれば録音機のごとくに、夢を描き続けたことは難くない。この選ばれしもののみによって、書き続けられた唯一無二の夢日記を疑う余地もないし、信じるほかにないと考える。
従って、私たちは、夢見る、眠る、目覚めることが一つの確固たる意思(普段、コミュニケーションの中で思いを伝える気持)で繋がれているということを受け入れざるを得ないのではと思う。

夢の操縦法エルヴェ・ド・サン・ドニ侯爵著立木鷹志訳図書刊行会
2012年3月22日刊
池谷裕二著:記憶力を強くする講談社2001年刊
野村進著;脳を知りたい!;新潮社2001年3月15日刊
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