本文へ移動

理事長メッセージ

理事長メッセージ

理事長メッセージ(56)リズムよい生活を送ろう(1)
2023-10-30
2023・10・20 宗 代次

歩くことは、ヒトの生活の始まりである。
歩くことに関して、旭川医大・高草木教授等は、

「歩行には全身の筋骨格系と脳の全領域が関与する。急いで横断歩道を渡り、障害物を避けるなどの随意的な歩行は大脳皮質を中心とする高次脳機能で実現される(随意的調節)。

一方、携帯電話を操作しながらでも歩くことができるのは、歩行を自動的に制御する皮質下構造の仕組みが存在するためである(自動的調節)。

また身の危険を感じて逃げるという情動行動には、大脳辺縁系(以下、辺縁系)が関与する。

これらの機能は加齢に伴う脳機能の低下によって損なわれ、歩行障害や転倒が誘発される。その背景には筋骨格系の脆弱化を含めた姿勢制御の異常が存在する。」

と証明されている

このことは、脳の成長と筋肉・骨格がバランスよく発達していることなので、「這えば立て、立てば、歩めの親ごころ」の子育ての思いをも裏づけたと言える。

数学者岡潔が、数学における「一」という観念・・・・・・について、

岡「一」を仮定したりて、「一」というものを定義しない。「一」は何であるかという問題は取り扱わない。

小林子供が「一」というのを知るのはいつとか書いておられましたね。

岡自然数の「一」を知るのは大体生後十八ヵ月と言ってよいと思います。そういう時期がある。そこで「一」という数学的な観念と思われているものを体得する。生後十八ヵ月前後に全身的な運動をいろいろやりまして、一時は一つのことしかやらんという規則を厳重に守る。その時に「一」というのがわかると見ています。

岡さんの指摘は更に次のように言う。

「十八ヶ月頃に、自分で一つのことしかやらない。それまで無意味に笑っていたのが、それを界に、にこにこ笑うようになる。肉体の振動ではなくなるのですね。」

この十八ヶ月頃に、母子一体化から、子どもは、感情の基本ができて、肉体の振動を感情と共に自分という意思が働くと考えていいのではなかろうか?



E・H・エリクソンが提唱した幼児期に対応する。

第一期・乳児期
母親ないし母的養育者との関係の変化の中で、基本的信頼対不信の危機を超えて、親や養育者との間にヒトとしての基本的信頼を獲得する。

第二期・幼児期
排泄、歩行、挑戦する時期でもあり、日常生活の自律対恥・疑惑の危機を超えて、自律心を獲得する。

このように解釈すると母親(養育者)からのヒトとして自律性の第一歩になると考えられないだろうか?

例えば、十八ケ月頃の子供が、初めて犬の散歩を見て、木片やコルク片を紐つきで、どこでも、いつでも、引き回して、無邪気に、にこにこしている。

そんな時に、何をしているのと聞くのも良くない。犬の散歩かと聞くのもよくない。ほんとうの犬を飼いたいと思っているか聞くのも良くない。

只々黙って、1〜2週間黙って見守っていたほうがいい。

1〜2週間でその遊びを終えるでしょう。後年、その記憶を思い出すことはないだろう。自分が体験した世界であるにもかかわらずに、一過性に過ぎ去る体験である・・・・・・・・・・・・

子どもは、次々と体験していくものを目の当たりにしていく、一ヶ所にとどまるわけにはいいかないのだろう。とにかく何かに向かって歩いていく(近づいて行く)ことなので、焦らずに歩いていることを無視せず、見守り続けるのが望ましい。この時期に、岡潔のいう情緒を伴った私がという主格・自我が形成されるのかもしれない。
更にヒトは何故二足歩行をしたか?

ヒトは、進化の過程で、全身の筋骨格系と脳の全領域が関与するまでになって、初めて歩くことが出来る。二足歩行ができるようになったのだといえる。

しかし、現在の脳科学の進歩とAIの進歩を見ても、二足歩行のロボットを作るのに、完成にはまだ時間を要するようだ。臨床精神医学の立場から見ると、このギャップは、いつまでも埋まらないでほしいと思う。ヒトの心を人工知能で割り切られては、感情の発散する所がなく、「息苦しくなる」ような気がする。

人工知能の技術革新は、機械の機能面に特化した分野で、ドローンの操作、車の製造の自動ライン、車の自動運転、工作機器の自動化など凄いスピードで進んできた。

しかし感情を如何にコントロールするかという技術革新は、なお高い壁に直面している。

むしろ「鉄腕アトム」「銀河鉄道999」以来「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」などジブリに見られる「アニメの世界」に無限の可能性を広げて来ていると思う。この傾向は、「息苦しさ」を開放する力を多くの人に与えているように思える。

さて、歩くことと同じくらい大切なヒトの呼吸は、母胎の中での羊水呼吸から、赤ちゃんは、一気に、泣いて(呼いて)吸うということから始まる。人の誕生、命の叫びでもある。
特に、東京農工大学工学部生体医用システム工学科客員教授北岡裕子は、哺乳類が、進化の過程で、胸部と腹部を分ける横隔膜が形成された。そして横隔膜が上下運動するように進化していった。この人の呼吸の変化は人の生活に、質的変化をもたらした。人の生活に動と静とのリズムを産み、さらに腹式呼吸によって、人のみが、移動しながら呼吸できるようになった。集団で狩りもできるようになった。

現代においても、自然の中をゆっくり呼吸をしながら、歩くことは、健康維持と気分転換に、真っ先に、心がけてもいいことではなかろうか?

1;歩行障害の臨床No.1歩行の生理的メカニズム

高草木薫*1 野口智弘*2 千葉龍介*3日医雑誌 第150巻 第11号/2022年2月2014頁〜2015頁

2、人間の建設;小林秀雄・岡潔著;新潮社・昭和53年3月31日刊
TOPへ戻る